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1999年に初版が発行された”Third Culture Kids"の邦訳がこのたび初めて刊行されました。 以前から邦訳があればなぁと思っていた本です。 そして、光栄なことに、出版社と翻訳者のそれぞれから、献本のメールをいただき、とても嬉しく思いました。 なぜ今まで翻訳がされなかったのだろうと思いますが、この本の初版が出た時期が、日本における「帰国子女教育ブーム」が去ろうとしている時期と重なっていたというのも一因だったのではないでしょうか。 日本では80年代から97、8年頃までが、「帰国子女教育」の黄金期ではなかったかと思います。 さまざまな研究が行われました。(こちらの文献リストにごく一部があります→http://www.u-gakugei.ac.jp/~gsato/bunken/bunken.htm) 「異文化間教育学会」が設立されたのも1981年でした。初期の学会では海外子女・帰国子女教育が大きなテーマの一つとなっていました。 心理的な側面についても、箕浦康子氏をはじめ、星野命氏ら、たくさんの研究がありました。 またカルチャーショックやリエントリーショックについても、様々な研究が行われ、適応段階についての著作も数多く見られました。 古家淳氏や袰岩ナオミ氏によるメタ・カルチャーの会や「私情つうしん」といった当事者からの発信も盛んでした。 この頃、異文化間を移動する子ども達の大変さは、かなり広く知られていたのではないかと思います。 やがて97年「海外・帰国子女の再構築」という本が出た頃から、ブームは去っていきました。 その後も海外・帰国子女に関する研究は少しはなされますが、近年は非常に少なくなっています。http://beauty.geocities.jp/estella_hoshi00/bunken.htm しかし、今、新たにこの邦訳によって、多文化の間を移動する子ども達の困難さが、読みやすい形で届けられることになりました。 これらの子ども達の辛さは、インターネットの発達した時代にあっても、決して昔と変わっていない部分があります。 乳児から18歳までの時期に、親の都合で異文化間を移動した子ども達(Third Culture Kids=TCK)を持つ保護者には是非読んでおいて欲しい本です。 また、そういった子ども達と関わる人達にもご一読をお勧めしたいと思います。 本の中には、宣教師の子ども、軍人の子ども、幼少期から寮のある学校に預けられる子どもといった、日本では滅多に居ない子どものケースもあるのですが、TCKの違和感は十分に理解できる内容になっています。 TCK自身の語りがたくさん挿入されていて、心情理解を助けます。 この本は三章から成っています。 まず一章ですが、1節では世界のどこにも自分の居場所が無い、と感じる女性の話が出てきます。 2節では、TCKの定義について書かれています。彼らは「学齢期において長期間、両親の文化圏以外で育つ子ども達」であり、世界中の様々な国に住んでいても、TCK同士はわかり合える何かがあるというのです。 3節ではTCKの4つの型についての説明があります。 ・外国人型ー外見の相違・思考の相違 ・帰化型ー外見の相違・思考の相似 ・隠れ移民型ー外見の相似・思考の相違 ・鏡型ー外見の相似・思考の相似 TCKはこれらを行き来することが多いのですが、一番苦労するのは帰化型と隠れ移民型だということです。帰化型では本人は皆と同じだと思っていても、明らかに外見が異なっており、また隠れ移民型の場合は、見た目は同じなのに、内面は異なっているのです。 4節では移動を繰り返すことによって、さまざまな心の過渡期を経験することについて書かれています。 全く違う文化に移動し、混乱しながらも、それに適応していかないと生きていけない小さな胸の内の苦悩は計り知れないものがあります。 二章では、TCKの特徴について書かれています。 1節では、メリットとデメリットについて書かれており、メリットとしては広い世界観や立体的な世界観を持つこと、豊富な異文化体験があげられています。デメリットとしては混乱する忠誠心や、悲観的な現実感、自国への無知があげられています。 2節から4節では人格的な特徴として、長所は適応能力の高さ、しかし場合によっては文化バランスが欠如することもあり、また偏見に囚われないケースもあるが、逆に偏見に囚われるケースもあるとのことです。すぐに決断するTCKもいれば、決断を怖れ先送りにしてしまうTCKも居ます。異文化適応能力が高く、状況への観察力があり、言語能力があるのもTCKの特徴です。しかし根無し草のような感覚や落ち着かない感覚を持っているTCKもいます。 5節では人間関係の形成について述べられています。多くの人との交友の機会があり、深い交友を持とうとしますが、別離の辛さも味わいます。 6節では発達について論じられます。早熟である一方、思春期や反抗期の遅滞が見られる傾向があるといいます。 7節では喪失への悲嘆といった様々な悲嘆を未解決にしていることがある、と述べられています。彼らは自分の世界や居場所、ライフスタイルを飛行機に乗った瞬間に失うのです。「恵まれているではないか」という言葉で、悲しむことを許して貰えないこともあります。「慰め」が必要なのに、心ない「勇気づけ」によって傷つくこともあります。 しかしながら、最終章である三章では、「TCKの利点を伸ばす」というポジティブな観点で、どうサポートしていけば良いのかが語られています。 1節では、しっかりとした準備、子どもを受け止めること、子どもをよく知っておくこと、前向きに考えることといった親の心構えが書かれています。 2節では次々と訪れる過渡期をどのように乗り切っていくかについて、ヒントが書かれています。 3節では「家族で過程を楽しむ」ことが提唱されています。 4節では、日本ではポピュラーな帰国のカルチャーショック(リエントリーショック)について書かれています。 5節では大人になったATCKに向けて、「決して遅すぎることはない」と伝え、「許し」について書かれています。 移動する子ども達に困難はつきものです。 しかしながら、その困難は人間を深くしてくれるはずです。 良い形で移動体験を昇華していってくれることを願うばかりです。 周囲に居るものは、それを少しでも手助けできたら、と思います。 なお、次回9月17日の相談会と10月20日の茶話会に、本を持っていきますので、ご覧になってくださいね。 |
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